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「美しく燃える森」 依田沙江美

昇の片目がある日突然開かなくなってしまう。原因不明の症状に、心配した勇気は自分の趣味も兼ねて昇を焼き物教室へと誘う。教室では急用ができた陶芸家の大澤の代わりに講師役を買って出て、女性の生徒たちに相変わらずのフェミニストぶりを発揮する勇気。陶芸の癒しどころか、昇の機嫌は徐々に悪くなっていくのだが、そんな憂さも吹き飛ばすような騒動に巻き込まれて……。
同居一周年のエピソードも収録した、待望の真夜中を駆けぬけるシリーズ第3弾。

 
ただ、食事をすること

ただ、共に眠ること

ただ、となりにいること

とりたてて言うほどでもないことが、これほど沁み入るマンガもない。が。
続きをずっと待ってたけど、そしてようやく会えたけど、このマンガの何に魅かれてずっと待っていたのかを突き詰めるのは、結構な難業だったりする。

この作品が大好きだと言いながら、ヘタレを理由に、今までキチンと向かい合うのを避けていたが、この度3巻を約束通り送り出して下さった作者様に敬意を表し、私も覚悟を決めようと思う。


以下、お久しぶり、今年3作目のマジガチモードである。参考:当ブログ用語辞典【マジガチ】
長期祭りの後に「濃い」感想を持ってくるのは、正直気が引けるが、これは今書かねばもう書けないような気がするので書く。
例のごとくネタバレ・ナニ様・敬称略がてんこ盛り。どうかご寛容いただきたい。


              *          *         *


 

直感脳で生きて、それを芸術という形に昇華させることが出来る勇気と、理性で生きて、それを企画や文章などの言葉で表現できる昇。
このマンガは、自己表現軸が正反対の2人が、互いを補完、時に反発しながら寄り添い続けていく姿を描くラブコメである。

ラブコメ…?
こんな繊細なラブコメあるだろうかと、ちと首をひねりたくなるが、作者自身が後書きで「ラブコメ」と表現しているし、シリーズ1巻目「真夜中を駆け抜ける」の内容紹介も、

新進気鋭の画家・日比谷勇気と雑誌編集者の土谷昇は、二度目の恋の真っ最中。
同居を申し出たりするわりに、仕事相手に嫉妬したり浮気癖の絶えない勇気に、昇は悩まされっぱなし。
しかし昇も、何度もそんな思いをしながらも、勇気のもとを離れられない自分の気持ちを認め、いまでは昔とは違うつかず離れずの関係を築いている。
事件 ?と痴話ゲンカがたえない二人がくりひろげる、丁々発止のラブコメディ☆

とあるので、ま、『ラブコメ』と断言していいだろう。
が、読み手には楽しいラブコメ♪でも、書き手側から眺めてみれば、これほど難しいマンガもない。←お前は書き手じゃないだろうとか言うお口はチャック☆

温かみのある絵柄と甘いイチャイチャ(※この2人がじゃれ合っているのを見るのが、私はめっちゃ好きだ、笑)にオブラートされてはいるが、一見平凡な切り口の「事件」でも、切り取った後の形(葛藤と克服と導く結論)が、実は尋常ではない。
このマンガで描かれる2人の「事件」や「痴話げんか」は、思いついて描ける類のものではないんである。

例えば、今巻「美しく燃える森」だと「昇の開かなくなった右目」が事件に当たるが、『萌』というサブキャラクターにまで反映させた心身問題や同性愛が抱えるリアル、言い換えれば恋愛の「闇」の部分を描く手段としてこの事件をスタート地点に起き、そして勇気の個性(直感の真心と芸術魂)を最大限に活かして、「美しく燃える森」で闇を浄化させてしまうあの一連の流れ、これを考えつくまでの思考回路がまず普通とは言い難い。

上手く表現できなくて申し訳ないが、例えば自分が物語を書けるとして(書き手側から眺めるとは、こういう意味と思っていただきたい)、勇気と昇というキャラから恋愛の闇の部分を描こうと考えた時、この作品のような形に辿りつくまでの思考過程が、ほとんど浮かばない。
解釈・考察に必要な「思考の後追い」がひっじょーに難儀な、複雑で入り組んだ構築が成されている、とでも言えばいいのか。←「構成」ではなく思考的な積み重ねという意味の構築  

「闇」と「浄化」を描くなら、もっとシンプルで分かりやすいアプローチがいくらでもあるのに、このルートを良しとする作者の思考回路、読むには「上手いな〜♪」ぐらいの仕上がりにしてしまう謙虚な姿勢の後ろに隠れた、作者の左脳(理論分野)に毎度驚愕させられる。
※「美しく燃える森」というタイトルからインスパイアされての、ゴールからの逆発想ルートならまだ理解できる。が、それも相当の上級ルートだ。


フラッシュバックする記憶の断片。
漠然ながら確かにある不安。
はっきりさせることへの恐怖。
衝動を抑えきれずに触れてしまう「傷口」

我知らずの心の悲鳴で、身体に異常をきたしてしまう昇や萌の苦しみは、種類・程度は違えど、ある程度の人生を歩んできたものなら誰にも多少は覚えのある痛みで、正直、そこをエグられるのはしんどい。だからこそ、勇気がどれほどの救いなのかがよく分かる。勇気の存在は、「傷」を自然治癒させてきたほとんどの読者にとってもあの時欲しかった救いの手、これを与えたかった、作者の優しい狙いが沁みてくる。

とはいっても、ここまでなら「普通ではないが上手い作家なら辿りつける高み」の範疇、この作者の非凡な形(感性)はこの先にある。

この話では、昇は結局、最愛の人に生涯話さない秘密を抱える事を選ぶ。
結果オーライなのだから、この後なにもかも勇気に話してしまったとしても、多分勇気は許すだろう。そして大概の作家は、そうするはずだ。
だってこれは「マンガ」だから。懺悔して、許して、一点の曇りもなく信じあって大団円で普通は終わらせる。
でもそれを選択しない昇の胸の内。それをさせない作者の狙い。
「70歳になったら籍を入れる」ことの重み。

これが作者の伝えたい「真のリアル」だ。でも「ラブコメ」だから、最後はイチャイチャで終わるのである。なんだかな、この潔さは!


この形にエグるには、思った、感じた、などという柔らかな心の動きではなく、傷になるほど深く心と記憶に刻まれてしまった感情を、晒して洗い直し、もう一度癒す作業が必要になる。
作者ご本人の経験の投影は、どんな作品でも少なからずあるが、この作品は、(おそらくは創作上の)ご自身の経験から派生した葛藤を拡大投影して作話しているように思える。(なんと自虐的な…「マンガ」が好きでなければやってられないだろう)
その苦しさを、この世の不条理から切り離した「マンガ=ラブコメ」という明るい形で救ってくれる強靭さが、この作品の魅力のひとつなんだと思う。



さらに、「懐かしい夜」で2人が見上げる月の逸話。
口絵にもなっている、あの春の夜のたった1ページ。あの1ページは、これまでのすべての「事件」と「痴話げんか」を収斂させた究極のエピソードとも言える。

個展を開く事を決心した勇気が、「最初に話したかった」と昇に告げた夜に2人で見上げた月。
昇が言った「上手い事」、彼は想いを言葉にする業の人。だから、その想いを口にする。
勇気は感性を形にする業を持つ人。なので、あの懐かしい「夜」を再現する。

あの時の月だから、昇は一目で夜空だとわかる。
あの時の月だから、一度壊れても作者は元に戻す。いや、戻るために一度壊す。

修復可能な美しい月、それが彼らの育んできた愛だと作者はいう。
綺麗で沁み入るエピソードである。読者は、この美しさをただ受け取ればいい。
が、作者は、この美しいものをわざわざ壊して、一度丸裸にしなければならない。
ちょうどあの「月」のように。

2人で泣きそうになった、あの夜。
月を見て一緒に泣ける2人を描くには、泣きたくて、月を見る気持ちを見つめなければならない。月を見ようと空を振り仰いだその時に、できれば自分1人ではなく、共に泣いてくれる人がいればいいと、胸の奥の奥でこっそり願っていた。そんな想いまで気づかなくてはいけない。
作者は既に達観している。だから、この2人を描ける。

本当は暴かれたくない、が、かなえてほしい願い。
この作者は、読者の期待に応えるというプロ意識を、こんなところに持ってくるのである。
こんなエグリ方されたら堪らない。


これだけのことを「痴話げんか」に収め、しっかりラブコメでオチをつけてしまう、作者の揺るがない姿勢。1話、2話ならこんな話も描けるかもしれない。でも3巻分ともなれば…。
まったく、この作品での作者は神がかりだ。


私がこのマンガに魅かれるのは、自分でも知らなかった願いや目をそらしてきた痛みを緩く示して、晒して、優しくハグ、時に笑い飛ばしちゃってほしいからと思う。
この作者が、今度はどんな深淵を覗いてくれるのか、どんな救いを与えてくれるのか、このマンガにはいつもそんなことを期待する。

だから、待てる。




かさぶたをはがして、再度刻んだ痛みを昇華させてからでなければ作品には出来ない、と重々承知の上で、続き待っていますと書いてしまう身勝手な読者を、お許しいただきたい。

想像以上に「創作」が苦しいマンガだと思います。
どうかお身体を大切にして、お仕事がんばって下さい。





◎イメージソング
一部作品を除いてコミックにイメソンはつけていないが、やはりこの作品には、この曲を合わせなければ、こんなブログをやってる意味がない。
なので、最後になるが上げておく。作者も大好きな曲のはずだから。


東京スカパラダイスオーケストラ 「美しく燃える森」
    
        




はあ、名作の感想は手強いな…。またも、「読むには楽し、書くには辛し」だ。
次回こそは、もちっと軽めにお送りします。








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    Comments

    >まOO様

    すごい!雑誌で既に読んでらしたのね!
    雑誌掲載時は鉛筆書きや空白のコマが露見していたというお話は聞いていたのですが、そうか、このシーンもさらっと終わっていたんですね。

    口絵に起こしていることから考えても、作者様がもっとも描きたかったシーンじゃないかな〜、と思ったのです。
    で、なぜここをそんなに書きたかったのかを考えたら上のような結論になっってしまいました。

    導いた結論に後悔はないんですが、結構クセのある(というか屁理屈な)見方をしちゃった自覚はあるので、UP時も今もかなりビビっており…ははは。
    まOOさんからかけていただいたお言葉が本当に嬉しかったです。どうもありがとうございました!

    また遊びに来て下さいませね♪
    comment by: miru-ha | 2010/07/17 04:39

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