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「桜の下の欲情」 秀香穂里/汞りょう

私にBLの面白さを教えてくれた秀香穂里さん。
コンプしたがるクセに途中でクールダウンしてしまう、めんどくさい性格の私がこの人の作品だけは全部追いかけている。
冒険心あふれるエロものも、お得意のクリエィティブ系ワーキングBLもどちらも好きだ。

でも近作「聖域の限界」を読んだ時、考えこんでしまった。
初めて秀さんに惰性を感じたからだ。

作品の質の当たり外れは今までもあるけれど、そこは理解できる。
でも「聖域の…」で感じたのはそういうレベルの話ではない。
こんな感じだと受けるかな?とササッとまとめて、するっと書いたかのような?
まるで優勝決定で情熱を燃やしきった後の消化試合のような、あまりに実のない内容に心が冷えた。
行間、というより言葉そのものを読ませて魅せる愛の言霊師・秀さん作とはとても思えない、哀しいただの文字の羅列。
3部作書いたり、ジャンルや表現の冒険もしつくして情熱が萎えてしまったのか。
それでも舞い込むお仕事に、こんな適当な折り合いをつける事を覚えてしまったのか。
「聖域の限界」とは作者自身のことなのかと。


その後「真夏の夜の御伽噺」を読まなかったのは、この作品が書き下ろしではない=「聖域の〜」より前の作品だと知っていたからだ。
全くの書き下ろし作品で今の秀さんを感じたかった。
だから今回の「桜の下の欲情」は私にとっては大きな意味を持つ作品だったわけだ。
(BLごときで何もそこまで…、とは、このブログに遊びに来て下さる方はよもやおっしゃるまいと確信している。)

私がこの作品をどのように受け取ったか、前置きもなしにいきなりマジガチモードで書きすすめていることからもお察しいただけるだろう。
まずはあらすじを記しておく。  
豪胆かつ繊細な筆致で、百年に一人の天才日本画家―。
美術は専門外なのに画壇の寵児・九重鎮之のイラスト連載を担当することになった編集者の本郷。けれど九重は、初対面から傲岸不遜で威圧的。
知識不足を糾弾するように「おまえの取り得は身体ぐらいだ」と迫ってきた!!原稿のためにはこの屈辱に耐えなければならない―。以来、自宅に通っては執筆の合間に抱かれる日々が始まって―。    
仕事と引き換えに脅されて、やられちゃって、でも結局は愛し合って大団円♪というBL界テンプレ設定。あらすじだけ見たら、おいおいまたか、と誰でも思う。
でもこの作品はベタでなければならない。だって、作者様はあえてベタを選んだのだもの。
目新しさも何もない使い古された設定で、それでも文章で魅せて読ませてやる、という、言葉を紡ぐプロとしての挑戦と誇りをこの作品に賭けたから。


百字きっちりでコメントをつける。
この単純ながら技ありの文章課題を実践してみせる事がどれだけ大変か。

対象物である「花」への想いはもちろん、「回を追うごとに雰囲気が出てるコメントになってるよ。」との上司の評価を読者に納得させる、テキスト力の向上まで表現しなければならないのだから問われる力量は半端ない。
実際、先の上司の言葉だけで逃げる事も出来た。でも秀さんはそうはせず5本全部書き上げたのである。
これが昔取った何とやらだけで出来る類の挑戦ではない事は、あまたの編集だの小説家だのが出てくる作品に作中作がほとんど出てこない事からもおわかりと思う。(もっともこれはBLに限った事ではない。作中の二次創作にこだわるぐらいならもう一本新作を書く安全志向の作家の方が多いというだけのことだ)
本筋に間接的な係わりしかない「コメント」でさえここまで魅せるのだから、メインストーリーはまさに言霊。想いのたけが言葉に乗って波と押し寄せる。
マジガチでなければこの本の感想は書き得ない、と己の居住まいを正さねばならぬほどに。

想いをこめすぎて外してしまった表現もないではない。
1例:「愚かな者にこそ、花は美しく映えるのだ」
人は花を愛でる心を持った事で「獣」から「人」になったとも言える。死者に花を手向けるのは愚かだからではないはず。重要アイテム「花」へ寄せた想いがこの一文でひっくり返る危うい表現


が、それすらも創作への真摯な挑戦が引き起こした若干の勇み足。
ご本人の今後の肥やしともなる、目に苦い良薬だろう。
(もっと抒情的なタイトルだったなら、とそこは本気で口惜しいのだが、これもあえてのベタの範疇とムリヤリ自分を納得させておく。)


挑戦と同時にこの作品には作者様の自叙的性格もある。ここに登場する主役2人は今の秀さんそのものだ。
画家の九重に作家としてのご自分を、編集者の本郷にライターだったご自分を多分に投影させ、創ることの苦悩と至福、書くことを仕事に選んだものの覚悟を彼らを通して語らせている。

九重が「桜」を描けなくなったこと、世間の批評、それでも描き続ける「花」。
これはそのまま作者の軌跡だ。

消費される言葉、枷ある表現、仕事で「書く」こと。
本郷の戸惑いはやはり作者の胸の内だろう。


もちろんこれはBLなので、男2人が支え合い救いあって愛と希望のハッピーエンド♪なのだが、2人の迎えるお約束の結末がそれだけの意味ではないのは、これ以上言葉を重ねずとも共感いただけるだろう。
よくここまでご自分を晒したものだ。創作にご自分の血肉を分ける「作家」の業と覚悟を見た。

もう大丈夫と思う。
きっと、これまで以上に邁進されるだろう。
こんな電脳最末端で、ご本人に1読者の言葉など届くはずもないがそれでも記しておく。




先生、お疲れさまでした。面白かったです。
次作も楽しみにしております。










※イラストチェックとイメージソングは次ページで。

   ◎イラストチェック/汞りょう(アート派〜挿絵マスター)
カラー★★★★
カット★★★★
私のだ〜い好きな絵師様が、大好きな作家様を担当する…。嬉しすぎる
以前も書きましたように、画力が群を抜いています。「人体」(骨格とか筋肉)をこれほどしっかり理解・表現できる絵師様、ラノベ界を合わせましても幾人もいらっしゃいません。
アートな個性あふれるタッチもいけますし、表情豊かなコミック調作品も難なくこなせます。さすがマスター!!
驚異の高デッサン力=基本がしっかりしていらっしゃるので、ベテラン&多作にもかかわらず絵柄が大幅に変わらない、そういった意味でも稀有な絵師様です。華やかなお絵柄ゆえ、スイートBLやファンタジーを多くご担当されておりますし、私のおススメもファンタジーなのですが、今作のような繊細なラブストーリーでのご活躍ももっと拝見したいです。

桜色の麗しいカラー、本編主人公が「桜」を得意とする日本画家なので、あえて桜を絵で表現せずリアル画像で処理されております。桜は植物画としては、かなりの高難度なので、下手に絵として描かない方が作品の雰囲気に合うとのご判断でしょう。これほどの画力を持つ方でも桜は難しいんだな〜、とちょっとずれた感想を抱いたのでした。

本編カットも1辺の不安もなし、安心してページをめくれます。和室であぐらをかいて座るという何でもないカットがありますが、これ、描いてみると実はすっごく難しいんだな!上体と下腿のバランスが取りにくいし、特に足の線(角度とか服のしわ)が超難関です。部屋や家具などと人体との寸法比もばっちりだし、もーさすがというほかございません。もちっと若かったら弟子入りしたいよ。



◎イメージソング

      

こんなに明るい世界へ 君が私を連れていく
眩しさに立ちすくむ 背中をそっと抱き締める

これからも九重は、墨絵を描いていくでしょう。
今までとは違う、希望と愛を信じられる、優しい黒の世界を。








〔絵師:みずかねりょう〕〔カラー:★★★★〕〔カット:★★★★〕




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[小説・作家名さ行]秀 香穂里 | comments(1) | trackbacks(0) |

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Comments

「桜の下の欲情」への拍手ありがとうございました♪
久々のマジガチモード、お恥ずかしい…。
が、書きたいことは書いた!ので個人的には満足です(ははは)

イラストチェックとイメソンつけてからのUPにしようともしたんですが、これだけは少しでも早い方が良いかと思いなおし…
なんせ徹夜してまで書きたかった感想だもんね(失笑)
おかげで、仕事が2日ほどキオクが飛んでます。
今も、爆裂に眠いです。 

素晴らしい汞りょう様のイラストチェックが書きたいのに書く時間がホントにないです、もう1人自分が欲しい…。


皆様 どうかまた遊びに来て下さいませね♪

comment by: miru-ha | 2009/11/10 03:32

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