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「孤島の鬼」江戸川乱歩 〜一般小説における同性愛

今日は土曜日ですので週末企画・「今週のTOP1でBLイメソン」の日ですが、GWのためランキング発表がお休み、したがって企画もお休みです。

年に2〜3回しかないフリー土曜日ですからイメージソングから離れて、普段取り上げない一般小説から、同性愛を扱った本の感想を書いてみる事にしました。
今回は前からまとめたかった江戸川乱歩の唯一の同性愛明記作品・「孤島の鬼」を取り上げたいと思います。
ミステリーFANだけでなく多方面からいまだにもてはやされる乱歩の作品群ですが、「同性愛」色が漂う作風も多い中、はっきりと明記したのは意外にもこの1作だけです(確か)
しかも欧米において同性愛は宗教上の関係から公に印刷、出版してよい類のものではなかったため、ミステリー史上世界初というおまけまでつく(らしい)偉大作でございます。
ところがこれ、キャ、大正で、美少年で、同性愛♪♪なんて軽いノリで読むと間違いなく頭カチ割られる、あまりに真摯な愛憎と執着の物語です。



以下激長・ほぼ全ネタバレです。
   もしこれから読まれる方がいらっしゃるなら創元推理文庫の「乱歩シリーズ」を絶対おすすめします。
1929年「朝日」連載時の挿絵(竹中英太郎画伯)がそのまま掲載されている上、この文庫特有の中表紙のあらすじが見事!だからです。抜粋すると…。
私(箕浦金之助)は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に落ちた。捨て子で幸薄い彼女との幸せな日々もつかの間、ある夜彼女は不可思議に殺される。恋人を殺された私は探偵趣味の友人深山木幸吉に調査を依頼するが、何かをつかみかけたところで深山木は衆人環視の中で刺殺されてしまう…!
あらすじでここまで書いていいのか、と思うぐらいネタバレなんですがこれがほんの序章。
本編は乱歩節とでもいうか、一人称の「私」がストーリーテラーとなって事件を振り返りながら話が進んでいきますので、物語のキモが暗示のように既に最初に語られています。
白髪をなでる私は30を超えたところだとか、私のの右太ももにある大きなあざの事を話すには世にも恐ろしい出来事をお話ししなければならない…てな具合です。
あらすじでモリモリ書いていいのも道理、既に最初の数ページでここまで書かれているためあらすじと合わせるとより謎が深まる演出がなされているわけです。
さすが、餅は餅屋、ミステリーにはミステリー専門文庫。
なおかつここに意図的に名を伏せられた重要人物がいます。彼がこの本の真の主役です。

博識な皆様はすでに内容も結末もご存知と思いますので、ここからは内容をご存じの体で書かせていただきます。
真の主役とは「私」の親友・諸戸道雄です。
この本の初読はBLなどまったく知りもしなかったO十年前ですが、正直その時は異常な島の人工的な悲劇にあっけにとられ気味悪がるばかりで、主役2人の愛憎やら怨念やらがいまいちピンと来ず、「私」が1日で白髪になるほどの恐怖がどこにあるのかよくわかりませんでした。気味悪いのはもっと前からだし、洞窟に閉じ込められて死にそうになる恐怖といっても1人ではない訳だし、途中で死ぬ覚悟決めてましたから、なんでいまさら?と。
でも、今読むと「私」が白髪になるほど怖かったのは諸戸であった事が良くわかります。

親友としてずっとそばにいながらも恋情を隠しきれない諸戸。誰もが羨望のまなざしで見る優秀な美貌の青年が自分を愛していると知っていて優越感に浸りながらあくまで親友として付き合っていく「私」。

「私」は自分がなよ竹のごとく美しい事を知っています。年上の男性の友人が多く、彼らに可愛がられて庇護される心地よさも知っています。しかもその事に悪気がない。時には反応を試したり無邪気に自分の魅力に酔っている甘え上手な真性小悪魔です。
他の年かさの友人たちはそんな彼を目を細めて可愛がってますが、諸戸だけは本気で彼を愛しているので「私」の行為は残酷極まりないのですが、離れて失う方がもっとつらいと知っている諸戸はどんな扱いをうけてもずっと「私」のそばにいるのです。
「私」は諸戸が親友として傍にいる間はどんな事でも許してます。手紙をもらったり肩を抱いたり、時には指先を絡めたりしてきても、友情の証・親友とじゃれあってるだけと割り切ってその行為を許し、好意すらもって自らも同じ行いを仕掛けたりもします。
にもかかわらず、酔った諸戸が「君は美しい…」と本音を言葉にした途端、「私」は弾かれたように激しく拒絶します。これでは諸戸、生き地獄です。

その後「私」と初代が恋に落ちた事を知った諸戸は、初代に親を通した家同士の交際・婚姻を申し込みます。「私」が女と幸せになるのが我慢できず、嫉妬のあまり女を奪おうとしたのです。この異常な執着。でもその前に「私」がしでかした数々を考えると彼に同情すらしてしまうのです。
ところがその後彼女は殺されてしまい、初めて「私」は諸戸を疑い事件は始まるわけですが、事件にはもっと複雑な背景があり、背景の謎解きと共になぜ諸戸が同性しか愛せない=女性に触れないのかもわかってきます。同性どころか「私」だけしか愛せない理由も察する事が出来るのです。
月刊誌連載で毎号ヤマ場を作らなければならない制約があるはずなのに何だこの巧みな展開?

様々な謎を解き明かして最後命がけで2人地下にもぐり、結果地上に戻れなくなった時(←こう書くとベタすぎて笑えますが1929年作だという事を鑑みて下さいマセ) 諸戸は2人で死ねる喜びを抑えきれずに「私」を掻き抱いてしまいます。
肉体的な疲労や死への恐怖から、進んで諸戸に抱きしめてもらい頬ずりすらしていた「私」はまたも逃げます。でも今度は諸戸はひきません。
「地上の世界の習慣を忘れ、地上の羞恥を捨てて、今こそ、僕の願いを容れて、僕の愛を受けて」

「私」は小悪魔ですが、根は善人ですから様々な異形の不具者を見ても彼らを化け物と呼ばなかったし、人としてちゃんと扱いました。それはこの本に出てくる他の人間が誰1人持っていない、彼だけの美徳です。その「私」が自分とともに死のうと、死ぬ前に君の愛が欲しいと抱きしめてくる美貌の男を「けだもの」「人ではない」と蛇蝎のごとく忌むのです。
肉体的マイノリティには嫌悪も悪意も抱かない「私」が、精神的マイノリティである諸戸には深い友情があったにもかかわらず激しく拒否する。
だからといって「私」は特殊な人間ではなくて現代でも普通に見られるヘテロ反応と思います。


ラストの2行に、気が狂いそうです。
同性同士が結ばれず、もしくはどちらかが死ぬ事で幕を閉じるというのは往年のJUNE系お約束ラストと言ってしまえばそれまでですが、今から80年前の1929年に男性がこれを書くという事実に驚愕です。いくら研究していたとはいえ、まったく身に覚えのない感情をここまで書き込めるとは思えません。
ミステリーのはずなのに、はっきり言って真犯人なんかどうでもいい。気味悪いのもご都合展開もどうでもいい。ただただ諸戸の生き様に涙するばかり。
「私」は諸戸が死んだ本当の理由に気付いたでしょうか。お願い、せめて気付いて。


で、こっから、もう一つの萌え。
乱歩はこの頃親友の画家・岩田準一と同性愛について共同研究(というか同好の士)をしており、この作品の「私」のモデルは岩田氏だといわれています。竹久夢二も認める美貌の持ち主であったとか。
ムムム…初読時はスルーしていた事実が今は光って見えますよ…。

でここまでは知ってましたが、最近再読した時知ったのが以下の文。

後に岩田の孫が「二青年図」(←これは乱歩の「二少年図」のもじりですネ)で、2人の危うい関係を描いた。

ちょっとー何段オチーっ??!!孫による2人の関係ですと?
乱歩は心情的には「私」(ヘテロ)だと思うので、岩田氏が諸戸役だとすると孫がいるって事は世間体だかプラトニックだったか、とにかくなんらかの事情で結婚したってことよね?

ふう、どこまで萌えさせて下さるのか。
「萌え」っていう語感に少々違和感を覚えますが、他に思いつかないもんなあって三浦しをんさんも書いてましたが、今回は切実にそう思います。
そんな軽いもんじゃないの、でもそんな重いもんでもないの。やっぱ「萌え」かあ。


乱歩は多作だわ、連載休止や発行延期は多いわ、代筆やリライトも躊躇なしで偉大な大衆娯楽作家とかいわれてしまいますが、これって言ってみれば今のライトノベルやBLのポジションでは?
今回の「孤島の鬼」や「黒蜥蜴」の様に乱歩らしくも突出の芸術作品がいくつかあるわけですが、初めから文芸大作書こうと思って書いたのではなく、後世評価が高まった結果の芸術品なわけです。

そう考えると今読んでるBLの中にも、80年後には一般的に芸術と認められる作品があるかもしれません。今のところその可能性を感じるのは木原音瀬さんでしょうか。
高遠さんや鷺沼さんなんかも絶賛されてるかも。

これは80年後文芸作品になりえるか、とか考えつつBL読むのもまた一興、なんですよね。




余談1:全作品読んでる訳でもないのにやたら乱歩を熱く語ってしまったのは、久世光彦氏の「乱歩」を読んだせいです。イタコ小説。めっさ乱歩に詳しくなれます。「孤島の鬼」再読はこのせいです。合わせて読むと鳥肌ブツブツ。のでここに記しておきますね。

余談2:オリジナルの挿絵も素敵なんだけど、再読中脳内を駆け巡っていたのは奈良さん画だった…。すさまじくかっこいいだろうなあ、画集とかで描いてくれないかな〜。




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Comments

「孤島の鬼」への拍手ありがとうございました。

4ヶ月前に書いた記事ですが、今でもご訪問の多い記事です。改めて乱歩作品、この作品の独特の世界と吸引力に感銘いたします。
80年前でも力衰えずの魅力、私のつたない感想でどこまでお伝えできているか…。

長い割には、あらすじばっかり書いてる様な…。そのあたりもう少しすっきり書きなおしたいな〜と思っています。
いい!って言う気持ちのほとばしりは本物なんですが(笑)


最後まで読んで下さってありがとうございました。
comment by: miru-ha | 2009/09/22 17:20

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